新都社×まんがおきば連携作品

ひとときの暗がり

作:しもたろうに [website]

高校一年生 - (23)寝不足はカッコいい

長年使われたモノに憑りつく事で生きてきた付喪神たちは、モノを大切にしなくなった現代日本で、憑りつくものがなくなり絶滅寸前まで追い詰められていた。

大切にしていたぬいぐるみを親に捨てられそうになり、そのぬいぐるみと共に家出をした少女が、そのぬいぐるみに憑りついていた付喪神と一緒に、なぜ付喪神が滅びなければならないのかと言う問題を通して、人間の断罪を考え始める。

「付喪神」はそんなストーリーだった。

守山によって加筆修正された「付喪神」は見違える様に演劇の台本に生まれ変わっていた。

局長の独りよがりで分かりにくいセリフ回しも修正され、最初にその他の神様たちが「付喪神」に対して噂話をすると言う形で、付喪神の設定を説明するシーンが付け加えられた。

場面変更は付喪神長老に会いに行くシーンのみで、それ以外はほぼ町のごみ捨て場で進行する。

局長は生まれ変わった「付喪神」を読み直し、如何に自分の書いたものが稚拙だったかを思い知らされた。

同時に人に物語を伝えると言う行為の意味を学ぶことも出来たと考えていた。

前回「ステファニー」での神様役が好評だった局長は、今回似たようなポジションの付喪神長老を演じる。

メインとなる付喪神をムラヤンが、家出少女あゆみを白石加奈、その他の神様たちを守山、黒崎、水野、ウルオがそれぞれ演じる事になった。

タクヤは今回も照明担当だ。

メンバーが足りなかったため、黒崎が友人の藤本と赤城の2人に協力を仰ぎ、黒崎・水野と一緒に音響を担当、本番当日のPAは藤本に決まった。

赤城はタクヤの照明の補佐を担当する。

局長は今回、守山と共に演出、監督も行う事になった。

台本が完成したのは10月の頭。

総文祭本番は11月頭。

実質1ヶ月ほどしか時間は残されていなかった。

しかも、前回の「ステファニー」とは違い、「付喪神」は大道具、小道具などもかなりの数必要だった。

ほぼ出ずっぱり、主役であるムラヤンと白石は役者に集中してもらう事になっている。

藤本と赤城、ウルオは、音響以外に急遽衣装や小道具を、大道具は守山と局長、タクヤの3人がそれぞれ兼任することになった。

文化祭の時の様に、夏休みを丸々練習に充てることはできない。

放課後、明るいうちは、それぞれに大道具、小道具制作、照明、音響の確認を行う。

その間、ムラヤンと白石は2人で本読み。

日が暮れ始めるタイミングで体育館ステージに移動し、全員で通し稽古。

学校が閉まる夜8時ギリギリまで毎日練習は続いた。

更に、土日は基本的に朝から夕方まで集まって練習。

局長は役者としての出番はそこまで多くなかったものの、初めて担当する演出と監督について分からない事ばかり。

寝不足で腐りかけた脳みそに守山から教えられる膨大な情報を詰め込む必要があった。

大道具制作と言う肉体労働もある。

これまでにない急ピッチで「付喪神」の舞台は作られていった。

それだけではない。

局長たちには、それ以外に次のシータのライブが10月末に控えている。

部活から帰ってきた夜9時から楽器の個人練習を行い、土日は部活終わりの夕方から犬小屋に集合して音合わせを繰り返した。

新曲5曲を一つずつ編曲しなければならない。

シータの歪な編曲作業はかなりの時間を要するため、どう考えても3週間足らずで5曲の編曲は不可能に近かった。

局長にはさらに、自分に課していたルールがあった。

尊敬する冨樫義博大先生が「漫画がうまくなるためには」と聞かれた時「何があっても週刊ペースで漫画を描く事です」と語っていたジャンプのインタビューを読んで以来、何があろうとも週に1話漫画を描くと決めていたのだ。

実際、テスト期間中であろうと、受験中であろうと、インフルエンザにかかろうとも、何だったら親族のお葬式があっても、毎週1話のノルマをこなし続けていた。

今ももちろん、そのノルマはこなしている。

そのため局長は、学校が終わると夜8時まで部活動、夕食後9時から翌1時までバンドの個人練習、それから朝まで漫画執筆。

そして、学校の授業中に仮眠を取ると言う全盛期の手塚治虫のようなスケジュールをこなしていたのだった。

学校がないため仮眠すら取れない土日は、更に過酷なスケジュールとなる。

漫画はともかく、それ以外のスケジュールに関してはシータ(啓司以外の)メンバー面々も同じ状況に追い込まれていた。

流石の局長もこのスケジュールの中で、部活や練習をさぼる勇気はない。

10月中旬頃、このペースでも本番までに劇が完成しない事を懸念した守山は、ほぼ存在意義のなかった部活顧問「てっちゃん」に頼み込んで、夜10時まで部活を続ける許可を貰って来た。

更に2時間部活の時間が長くなる。

局長のスケジュールはその分ずれ込むことになり、ところてん方式で平日の授業時間は仮眠から漫画執筆の時間に変更された。

昼休み、いつものトイレ裏に集まる守山、タクヤ、局長の3人は、流石に疲労困憊のお互いの顔を見て「ここのところ、ほんとにずっと一緒にいるね」と乾いた笑顔で笑いあっていた。

夜10時までの練習になった事で、夜8時には一度夕食を兼ねた休憩が入るようになる。

近くのコンビニへの買い出しは黒崎と藤本が担当していた。

「高井君…大丈夫?顔色が土色通り越して死人みたいになってるけど…」

黒崎が局長におにぎりと肉まんを手渡しながら話しかけた。

「ライブも近いんでバンドの練習もしないといけないし、漫画も描きたいので…」

自分で勝手に自分を追い込んでいるだけでしかない事実を局長は少し勝ち誇ったように話した。

「部活10時までやってるのに、いつそんな時間あるの?」

黒崎が目を丸くして尋ねる。

「10月入ってからほぼ寝てないですよ。寝る時間があったら、鍵盤触っていたいし、絵を描きたい感じでなんですよね。」

殊更勝ち誇ったように、薄笑いを浮かべて局長は答えた。

思春期(と言うか中二病)の童貞男子はとにかく寝ていない事を自慢する。

蜘蛛が習わなくても巣の張り方を知っているかの如く、思春期になると必ず寝ていない事を自慢したがる。

人間には3大欲求がある。

俗にいう、食欲、睡眠欲、性欲だ。

思春期の男子は体を作るためなのか何のか良く分からないが、とにかく腹が減ってしょうがない。

そしてメチャクチャ食べることが出来る。

あと、四六時中臭ってくるほどムラムラしている。

スーパーで桃を見ただけでも欲情するし、何なら体育座りした時の2つ並んだ自分の膝から胸の谷間を連想して欲情する事だってできる。

オナニーは、当たり前のように1日に2~5回。

そんな思春期の童貞野郎にとって、唯一さほど我慢せずに減らせるもの。

それが睡眠時間なのだ。

人と比べて何も特筆すべきことがない上に、圧倒的な努力を行う事も出来ない。

そんなどうしようもないヘタレ野郎にとって、別に苦労も努力も我慢もなくお手軽に自分を他人と差別化する方法が寝ない事であり、それはほぼ全てのどうしようもない中二病童貞男子高校生が行きつく結論でもあった。

局長も同じだった。

「凄いねぇ~。でもあんまり無理しちゃあダメだよ。今、高井君が倒れたら、劇完成しないよ。」

そんな浅はかな局長の思惑を慮ったのか、あえて黒崎は局長の喜ぶような表現で優しい声をかけた。

この子の下の穴(オレの穴)は、今大洪水に違いない。

今の忙しさが終わったら、しっかりちゅぱちゅぱそのお汁を舐め取りながら愛でてあげるからね。

来るべき童貞卒業を妄想してニヤけているうちに、気が付けば黒崎はムラヤンのところに移動し「はい!お疲れ様!」と言いながら、おにぎりと肉まんを手渡していた。

「またその内にね。」そうつぶやいて、局長は手に持っていた肉まんを頬張った。

肉まんのへこみ部分をお尻に、先っぽの部分を乳首だと妄想しつつ貪りついた。

突如として襲ってきた無茶苦茶なスケジュール。

極度の人見知りで、何よりも集団生活が苦手な局長は、常に誰かと一緒にいるこの現状にかなりのストレスを抱えていたことは間違いない。

ただ、それであっても、局長はこの現状を憂うどころか、寧ろ永遠に続いてくれとさえ考えていた。

局長にとって、今のこの現状はまるで白昼夢のような感覚だった。

自分の存在が必要とされ、自分の書いた物語や楽曲を発表するために、多くの人達と同じ時間同じ苦労を共有している。

これまでどんなコミュニティに居ても「砂漠の砂鉄」のような扱いを受け、みんなで何かを行う際には率先して爪弾きにされていた局長は、青春と言う言葉自体を、胡散臭い嫌悪の対象でしかないと考えていた。

だからこそ素直に受け入れることは出来なかったが、それでも、自分にとっての青春が今まさに繰り広げられている事は否定しがたい事実であるとも考えていた。

誰もが経験するであろう人並みのイベントを、こんな嫌われ者の自分が経験している。

そのこと自体が局長はどうしようもなく嬉しかったのだ。

非日常的な熱狂に翻弄されたまま、あっという間に数週間が経ち、そしてライブ当日を迎えた。

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