新都社×まんがおきば連携作品

ひとときの暗がり

作:しもたろうに [website]

高校一年生 - (14)付喪神

日本には、古来よりアニミズム信仰が根強く残っている。

例えば「八百万の神」と言う考え方。

この世にありとあらゆる万物全てに神が存在する。

自分と言う存在が生きるために必要なありとあらゆるものに対して、感謝と尊敬、そして畏怖の念を持つという日本独特の風習のひとつである。

近年世界から注目されている「勿体無い」という考え方も、元を糺せばこの考え方から来るものである…と、社会科の歴史の授業で担当の宮月先生が話していた。

局長は、夏休み中に16歳になっていた。

わずか16年とは言え、一応必死で生きてきたのだ。

その中で、「最大の衝撃は?」と聞かれれば局長は中学二年の時を挙げるだろう。

「寄生獣」と言うマンガを読んだ時の事だ。

見た事も無い圧倒的に練り込まれたストーリー。

きれいに全てが繋がっていく伏線。

そして、内臓を掴まれるほどにキリキリと差し迫る重苦しいテーマ。

それまでドラゴンボールを初めてとするジャンプ漫画ばかり読んでいた局長にとって、その全ては驚愕に値するものだった。

1話を読んだとき、そのあまりの面白さに、2話目に進むことができず「まずは落ち着こう」と本を閉じた。

自分の生きてきた人生を振り返り、なんだか分からない自分の無為な日々に対して、激しく落ち込んだ。

結局2話目を読むことができたのは翌日になってからだった。

その衝撃はあまりにも凄まじく、それまで作ってきていた物語や読んでいた漫画、見ていた映画、その全てが「寄生獣以前」と「寄生獣以後」で明確に分かれほどの衝動となって局長に襲い掛かった。

それまで局長の作る物語と言うのは、ただ思いついたネタを延々と書くだけのもの。

訴えたい事の何も無いその物語には全くといって良いほど厚みが無い。

人に見てもらうための作品ではなく、ただ頭の中にある何かを外に吐き出したいと言う衝動に突き動かされて書いただけの物語だったと言い換える事も出来る。

「寄生獣」の衝撃に襲われた局長は、それまでに書いていた漫画「ニュースチョクホー」と「あくしょ~ん大魔王」の執筆を即座にやめ、自分の頭の中にある膨大なイメージを一つの世界にまとめるという行動に入る。

そして、その世界の中の出来事をいくつかに分割し、それぞれに「寄生獣」を意識した別々のテーマ性を持たせ、複数の物語を作り出した。

「ランナウェイデイズ」「ファーストエンド」「マリオネット」「G」「アス」と名付けられた5つの物語だ。

中学生のころ、まずはこの中の「ファーストエンド」と言う物語から書き始めた。

高校1年生の現在、局長はこの中の「ファーストエンド」と「マリオネット」を完結させ、「ランナウェイデイズ」と言う物語を執筆していた。

以前、台本に書いた物語は、この「マリオネット」の1場面を流用したものだ。

寄生獣ショック以降、この世界観を描くことだけに没頭していたため、演劇の台本を書くという行為を前にしても、あくまでも世界観を描くことの延長線上としてしか捉えることができなかった。

以前、水野との会話から局長が閃いたのは、この一風変わった創作活動からの脱却だった。

初めて「寄生獣」に出会ったあの日にもう一度立ち戻り、ゼロから物語を書くという発想。

物語を書いてほしいと言われたとき、ゼロから物語の構想を考える。

どう考えても、普通。

当たり前。

普通過ぎる発想。

だがそれに反して、16歳高校1年生の局長は、執筆依頼を受けたときに過去の作品の流用から入る大御所作家のような振る舞いを行った。

そして、この行為自体がそもそも論外だと言う事に、当の本人は悲しいかな気づくことができていない。

それどころか、新しい物語を書こうという至極当たり前の行為に対して、目から鱗が3万枚ほど剥がれ落ちたほどの途轍もない閃きの様に感じていた。

もう一度「寄生獣」のテーマに立ち返り「生きる・命」「人間の愚かさ」の2つのテーマから、新しい物語の構想を考え始めた。

じつは書きたい素材があった。

それが、アニミズム信仰と言うものだ。

高校に入ってから、社会科の歴史の授業で習ったのだ。

その時から、後々ネタになるかも知れないとネタ帳にメモしていた。

「アニミズム。神様がいっぱいいる。面白いかもしれない。」と。

このアニミズム信仰と先程の2つのテーマを絡めた物語はどうだろうか。

つまりは、消費文明の中、実はモノにも「神」と言う概念で言われた通り命があった。

それも関わらずモノを捨て続けた人間は、 知らず知らずの内に多くの命を消し去っていた…と言う設定。

局長にとって、この設定が何だか素晴らしいものに思えた。

中学生の時以来、実に3年ぶりくらいに考えた新しい世界の構想がキラキラと輝くものに見えて仕方がない。

往々にして閃いた瞬間はそんなものだ。だが、閃いた当の本人はそのキラキラが本物のダイヤモンドであると信じて疑わない。

そうやって、この世の中には次々と黒歴史が紡ぎだされている。

局長も当たり前にその内の1人だった。

次にタイトルを考える。

タイトルは大切にしたモノに宿る妖怪「付喪神」から持ってきて、そのものずばり「付喪神」。ひねりが一切ないことが逆にカッコいい。と、思った。

夏休み前に、このタイトルと構想が固まった局長は、夏休み中にこの物語を完成させるつもりだった。

だがしかし、世の中は大体思い通りには進まないもの。

急遽決まった「シータ」のライブに夏休みのほぼすべてを費やしてしまった局長は執筆活動に全くと言っていいほど取り組むことができなかった。

結局自信作「付喪神」は、文化祭には間に合わなく、文化祭では既成台本「すてふぁにー」を上演する事が、夏休み中に決定する。

決定を下した守山は、局長が裏で絶対的自信作の台本を執筆している事を知らなかったし、局長もあえてそれを口にしなかった。

ライブの練習と平行して、夏休み中に演劇部での「すてふぁにー」の練習も始まる。

ムラヤンとウルオは見事に主役の座を射止めた。

2人の役者デビューだ。

あまり役者として人前に立つ事を望まなかったタクヤは、照明(特にピンスポットライト)の担当になった。

局長は本当なら目立ちたいから役者志望でありながら、はっきり意思表示をしない性格が災いし役者を希望しなかっただけでなく、裏方担当もはっきり拒否しなかった為に「一番やる気の無い部員」の烙印を押されていた。

困り果てた守山と黒崎は相談の末、「神様」と言うチョイ役だけを局長に与え、取り合えず演劇の楽しさを局長に教えると言う懐柔策に打って出る事になった。

ある意味、局長も役者デビューではあった…チョイ役だけど。

練習は、和気藹々と進んでいく。

ただし、局長だけが自身の扱いに強い不満を抱いていたため、部活をサボりこそしないまでも、不真面目な態度で練習に参加しては他の部員のやる気を削ぎまくる迷惑部員となっていた。

自分に少しでも目を向けてほしい。特に女の。

自分を少しでも認めてほしい。特に女に。

ただ、その方法が分からない。

女性経験皆無の局長にとって、唯一思いついた方法が迷惑をかけると言う180度逆の行動だったのだ。

部員の中には、局長に対する不満を口にする部員も増えていった。

原因は全て自分にあるのだが、客観的に物事を見ることなど出来るはずも無い局長は、そんな現状にさらに不満を募らせていった。

何もうまくいかない。タクヤも、ムラヤンも、ウルオもみんなうまくいっているのに、自分だけが全く思い通りにならない。

ただ、局長には「付喪神」と言う台本があった。

今回の劇が終わって、オレの「付喪神」さえ皆に見せることが出来れば、きっと皆のオレを見る目も変わるはず。

実は裏でこんな素晴らしい台本書いていたなんて私の目が節穴だったわ。お詫びに私の下の穴を好きに使っていいわよ。うっふ~ん。

となるに決まっている。

そんな謎の期待を持つ事で何とかその日その日をやり過ごしていた。

今に見ていろ。オレの穴たちよ。である。

自信作「付喪神」を皆に見せて見直してほしいという欲求はもちろんあった。

ただ、それ以上にこんな自分に対して、それでも相手にしてくれる守山の存在に少しでもいいから報いたいという気持ちが局長の中に存在していたのだ。

ちなみに、演劇部内でさえも浮いた存在となり始めていた局長にとって、ティーンズライブに守山が来てくれたと言う事実が 他のメンバーとはまた少し違った意味を持ち始めていた事もついでここで言及しておこう。

そんなある日。タクヤが局長にある話を持ってきた。

「今年から、文化祭でバンド演奏のコーナーが始まるって。シータの次のライブが決まったな。」

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