スッポトライトと言うものは、驚くほどに熱いんだな。

汗だくの局長は、そんな事を考えながらインタビューを受けていた。

このライブでは、演奏を終えたバンドのリーダーが今回のライブでの感想や今の気持ちなどを、司会の人から聞かれて答える方式になっているようだ。

ただ、記憶がない。

気が付けば、インタビューを受けていた。

そもそも、シータのリーダーは局長だったのか。

ひとつの事項がこの瞬間決定した。

などなど、悶々と妄想している中、司会のミニスカートをはいた清楚と言う言葉から数億年離れたであろう容姿の女性がインタビューを開始した。

「今回のライブはいかがでしたか？」

「えっと…はい。僕達には初めてのライブで…でして…それなのに、ちゃんと練習時間が取れなかったので…全然ダメでした。」

「そうですか？ちゃんと曲になっていましたよ。どの位練習したんですか？」

「１週間に１回～２回位みんなで集まって音合わせしていましたです。本当はもっとしたかったんですけど…みんな忙しいみたいで…」

「今回の曲は…あれ、オリジナルですよね？」

「あ…ハイ。そうです。僕達は、基本的にオリジナルしかやりたくないんで…あ。でも、練習でコピーもある程度はするんですけど。」

「完全プロ志向ってやつですね！」

「いや…全然そう言う訳じゃ…」

「今回の曲の他にも、オリジナル曲はあるんですか？」

「え…と…一応、２・３曲ほど…」

「なるほど。じゃあ、今度のライブではまた別の曲を聞かせてくれるんですね？」

「あ・・・はい。まぁ、そんな感じです。」

「分かりました。ありがとうございました。シータの皆さんでしたぁ～」

最後の一言は、多分決まっているのだろう。他の言葉と比べて、最も流暢であり、そして感情が入ってなかった。

何はともあれ、シータの初ライブは終了したのだ。

まさにあっと言う間の出来事。局長は、ステージ上での事を何も覚えていなかった。

ステージ袖にいた時の事は覚えている。

しかし、次の記憶はインタビューと称してステージの横に連れて行かれ、配線に躓いた瞬間まで飛んでいる。

実際にライブはどうだったのか。

2～30人はいたであろうお客さんは聞いてくれたのだろうか。盛り上がってくれたのだろうか。

「ちゃんと曲になってた」と言う言葉から、ちゃんと曲は演奏できたと信じたい。

「ちゃんと曲になってた」と言う事は、ぎりぎり体裁を保てた程度で、聞けるレベルではなかったと言う事だったか？

いくつかの可能性を頭に巡らせつつ、若干早足で控室に向かった。

ステージ袖には、次出番のバンドだろう眼鏡をかけた真面目そうな男3人が立っていた。

一人は、こんな容姿なのに、モヒカンをそそり立たせている。

その様子がひどく滑稽に見えた。

3人は口々に「お疲れさんです。」と、局長に声をかけた。

局長は、3人に対してペコリと頭を下げ、その場をそそくさと通り過ぎた。

控室に帰ると、タクヤが

「さっきまで部長が来てたよ。でも何か家の用事があるらしくて。今、帰ったとこ。」

と説明してくれた。

テンションが上がりまくっているのだろう。早口すぎて聞き取りにくい。あと、口が臭い。まずは水を飲んでほしい。

ただそれは、局長含めシータのメンバー全員に言えることでもある。

「そっか…会って直接お礼言いたかったな。」

「マァ、部活で会えるから、その時に改めて言えば大丈夫。」

「取り合えず終わったよ。皆ぁ！お疲れ！」

啓司が、無視されまいとわざと大きな声でそう言った。

「はぁ～・・・。」

ウルオは大きくため息をつき、その場に座り込んだ。今になって、体が震えだしている。

「ゴメンなさい。ほとんど歌ってません。」

ムラヤンが恐ろしい事を口にした。

「まぁ取り合えず良しとしよう。シータの初ライブは成功だ。」

タクヤがそう言った。

「まぁな。あとは、部長にあいさつ出来たら有終の美だったけどな」

局長は、守山に会えなかった事だけが明らかに心残りの様子だ。

「じゃあ、部長にあえたオレは完全に成功と言う事か。」

タクヤは少しニヤけつつ「次のライブ探す」とつぶやいた。

どうやら、すでにライブの魔力に取りつかれつつあるらしい。

帰り道。

それぞれが口々に「またやろう。」「おもしろかった。」「これはクセになる」「だから、南里愛はね…」と満面の笑みを浮かべて話している。

尋常じゃなく汗くさい5人は、からからの口から信じられない口臭を放ちながら、ケラケラと笑いつつ、ライブハウスを後にした。

夏の終わり、少し涼しくなりつつある夕方の街の喧騒の中に、5人は消えていった。

高校最初の夏休みが終わろうとしていた。