ひとときの暗がり
作:しもたろうに [website]
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何重に鋲が並んでいるのか分からない恐ろしく長いブレスレットをしたモヒカンの男が今、ステージ上で猛り狂っている。
所詮は地方の片田舎のライブハウス。
決して良い機材が揃っているわけではない。
モヒカン男の猛りは悲しくも、くぐもったマイクのせいで別世界からやってきた異次元人の声にしか聞こえなかった。
更にそれをノイズ交じりの爆音ギターがかき消していく。
まさに混沌。
メンバーは全員首がもげるほどヘッドバンキングを行っている。
簡単な音合わせを兼ねたリハーサルだと言うのにだ。
ステージ袖では、リハの順番待ちをしているシータの5人が顔を引きつらせて待っていた。
「うまいな・・・」
今にも宇宙人とコンタクト出来そうな謎の音楽を聴いてタクヤがつぶやいた。
1曲演奏しきったモヒカン男のバンドのリハは無事終わった。
バンド名は「マイノリティーボックス」と言うらしい。
これから本番に望めるのか心配になるほどに完全燃焼した「マイノリティーボックス」の面々はヨロヨロとふらつきつつステージから履けていった。
帰りがけ、シータの面々とすれ違いざまに「お先ッス」とだけ言った。
よっぽど疲れていたのか、声が裏返っていた。
「セットできたら、さわりの部分だけで良いんで流してください。」
ミキサーに所で何だか良く分からない「つまみ」をいじくっている男が声をかけたが、自分の事に必死なシータの面々は返事さえ出来なかった。
「え・・・と・・・ストリングスとピアノの音色をミックスすんのはこのボタンでいいのかな?」
ライブハウスにあるキーボードを使う局長は、見た事も無い機材にメダパニを10回かけられた位混乱していた。
脇からは見たこともない量の汗がにじみ出している。
タクヤはベースをアンプにつないで、全く関係ない自分の好きな曲を弾いていた。
その横ではどうしても音が出ずに、アンプの見た事も無い「つまみ」を弄繰り回している啓司。
ウルオは異常にスネアが高くセットされたドラムを調節している。
「マイノリティーボックス」のドラムがやったのだろう。
ボーカルのムラヤンは手持無沙汰そうに、右手に持ったメモを眺めている。
結局歌詞を覚えきれなかったため、急遽用意したカンニングペーパーだ。
おそらく他のバンドの倍以上の時間をかけ、セッティングは完了した。
局長がムラヤンに手でOKの合図をする。
「で・・・出来ました。」
緊張した声でムラヤンが言うと、「ではどうぞ~」と流されるように返事が返ってきた。
チッチッチッチ・・・
ウルオがリズムを取る。
演奏するのはもちろんこの日のために練習してきた「森を抜けた先にある闇~ハイスピードVer~」。
前奏が終わった所で、「ハイオッケーです。」の声が響いた。
少し時間がかかったが、順調にリハを終える事は出来たのだ。
「マイノリティーボックス」のメンバーが1曲全部を演奏したのはPAさんの「オッケー」の声を無視して、演奏していたからだったらしい。
PAさんの声をフル無視するほどの激しいパフォーマンスをリハーサルからかましていた「マイノリティーボックス」と比べ、いかに自分が枠の中に入ったままの矮小な存在なのかと言う事を少しだけ局長は考えていた。
この場合、どちらが正しいのか非常に微妙な気がしないでもなかったが、局長自身、初めてのライブハウスという環境に完全に飲まれていたことは否めない。
全員が1分足らずの演奏をしただけでヨレヨレになってステージから降りると、楽屋へ続く廊下に演劇部部長の守山明美に姿があった。
「お~いたいた。え~と・・・何時からの出番なのか、聞いてなかったから、いつ来たら良いのか分からなくてちょっと早めに来たよ・・・まだリハーサルなんだ。で、何時から?と言うか、バンド名って何て言うの?それが分からないから、出番表見ても分からないのよ。」
少し早口にそう言いながら、守山はシータの面々に向かって歩いてきた。
唯一シータのライブチケットをお金を出してくれた守山が、本当に見に来てくれている事感動した局長は タクヤの方を見た。
タクヤもおそらくは同じ思いだったのだろう、ニヤニヤしながら
「シータって言うんです。バンドの名前。んで、マイノリティーボックスってバンドの次なんで、多分3番目ッス。」
と言った。
「ん。分かった。それじゃあ・・・あとで。」
そう言うと守山は客席に向かった。
「本当に来てくれたんだな。・・・部長。」
「誰も来てくれないと諦めてたんだけどな。」
「うわ~。知ってる人が見てくれてるとか考えたらメッチャ緊張する~。」
「南無阿弥陀仏。」
守山の事を知らない為に、話が見えてこない啓司を無視し、口々に喜びを表現しながら楽屋に向かう。
「部長一人で来てくれたのかなぁ?金も払ってもらったし、ここまでの電車代もあるし、今度ジュースでも奢らないとな。」
「確かに…何かお返し考えようか。」
局長とタクヤはまだ守山が来てくれた事を喜び合っている。
ムラヤンとウルオは、リハーサルで少し緊張が解けたのかいつも通りゲームの話をしている。
啓司はいつも通り無視されている。
5人は、楽屋と言うにはあまりにも狭く汚い控室に戻り、少し談笑を始めた。
「全部で30人くらいは来てるらしいぞ。」
「すげぇ。」
「何だろう…中学の文化祭の方が人数は多かっただろうけど、今回の方がやっぱりドキドキする。」
「下級生の結城瑞穂がね…」
少しばかり緊張もほぐれて、他愛もない会話に花が吐き始めたその時。
ダダダダダダダダダダ!!
突然爆音が流れ出した。
最初のバンドの演奏が始まり、ライブが開演したのだ。
シータの出番は3番目。時間的に換算すると約1時間・・・弱。
シータ初ライブまで1時間をきったのだ。
所詮は地方の片田舎のライブハウス。
決して良い機材が揃っているわけではない。
モヒカン男の猛りは悲しくも、くぐもったマイクのせいで別世界からやってきた異次元人の声にしか聞こえなかった。
更にそれをノイズ交じりの爆音ギターがかき消していく。
まさに混沌。
メンバーは全員首がもげるほどヘッドバンキングを行っている。
簡単な音合わせを兼ねたリハーサルだと言うのにだ。
ステージ袖では、リハの順番待ちをしているシータの5人が顔を引きつらせて待っていた。
「うまいな・・・」
今にも宇宙人とコンタクト出来そうな謎の音楽を聴いてタクヤがつぶやいた。
1曲演奏しきったモヒカン男のバンドのリハは無事終わった。
バンド名は「マイノリティーボックス」と言うらしい。
これから本番に望めるのか心配になるほどに完全燃焼した「マイノリティーボックス」の面々はヨロヨロとふらつきつつステージから履けていった。
帰りがけ、シータの面々とすれ違いざまに「お先ッス」とだけ言った。
よっぽど疲れていたのか、声が裏返っていた。
「セットできたら、さわりの部分だけで良いんで流してください。」
ミキサーに所で何だか良く分からない「つまみ」をいじくっている男が声をかけたが、自分の事に必死なシータの面々は返事さえ出来なかった。
「え・・・と・・・ストリングスとピアノの音色をミックスすんのはこのボタンでいいのかな?」
ライブハウスにあるキーボードを使う局長は、見た事も無い機材にメダパニを10回かけられた位混乱していた。
脇からは見たこともない量の汗がにじみ出している。
タクヤはベースをアンプにつないで、全く関係ない自分の好きな曲を弾いていた。
その横ではどうしても音が出ずに、アンプの見た事も無い「つまみ」を弄繰り回している啓司。
ウルオは異常にスネアが高くセットされたドラムを調節している。
「マイノリティーボックス」のドラムがやったのだろう。
ボーカルのムラヤンは手持無沙汰そうに、右手に持ったメモを眺めている。
結局歌詞を覚えきれなかったため、急遽用意したカンニングペーパーだ。
おそらく他のバンドの倍以上の時間をかけ、セッティングは完了した。
局長がムラヤンに手でOKの合図をする。
「で・・・出来ました。」
緊張した声でムラヤンが言うと、「ではどうぞ~」と流されるように返事が返ってきた。
チッチッチッチ・・・
ウルオがリズムを取る。
演奏するのはもちろんこの日のために練習してきた「森を抜けた先にある闇~ハイスピードVer~」。
前奏が終わった所で、「ハイオッケーです。」の声が響いた。
少し時間がかかったが、順調にリハを終える事は出来たのだ。
「マイノリティーボックス」のメンバーが1曲全部を演奏したのはPAさんの「オッケー」の声を無視して、演奏していたからだったらしい。
PAさんの声をフル無視するほどの激しいパフォーマンスをリハーサルからかましていた「マイノリティーボックス」と比べ、いかに自分が枠の中に入ったままの矮小な存在なのかと言う事を少しだけ局長は考えていた。
この場合、どちらが正しいのか非常に微妙な気がしないでもなかったが、局長自身、初めてのライブハウスという環境に完全に飲まれていたことは否めない。
全員が1分足らずの演奏をしただけでヨレヨレになってステージから降りると、楽屋へ続く廊下に演劇部部長の守山明美に姿があった。
「お~いたいた。え~と・・・何時からの出番なのか、聞いてなかったから、いつ来たら良いのか分からなくてちょっと早めに来たよ・・・まだリハーサルなんだ。で、何時から?と言うか、バンド名って何て言うの?それが分からないから、出番表見ても分からないのよ。」
少し早口にそう言いながら、守山はシータの面々に向かって歩いてきた。
唯一シータのライブチケットをお金を出してくれた守山が、本当に見に来てくれている事感動した局長は タクヤの方を見た。
タクヤもおそらくは同じ思いだったのだろう、ニヤニヤしながら
「シータって言うんです。バンドの名前。んで、マイノリティーボックスってバンドの次なんで、多分3番目ッス。」
と言った。
「ん。分かった。それじゃあ・・・あとで。」
そう言うと守山は客席に向かった。
「本当に来てくれたんだな。・・・部長。」
「誰も来てくれないと諦めてたんだけどな。」
「うわ~。知ってる人が見てくれてるとか考えたらメッチャ緊張する~。」
「南無阿弥陀仏。」
守山の事を知らない為に、話が見えてこない啓司を無視し、口々に喜びを表現しながら楽屋に向かう。
「部長一人で来てくれたのかなぁ?金も払ってもらったし、ここまでの電車代もあるし、今度ジュースでも奢らないとな。」
「確かに…何かお返し考えようか。」
局長とタクヤはまだ守山が来てくれた事を喜び合っている。
ムラヤンとウルオは、リハーサルで少し緊張が解けたのかいつも通りゲームの話をしている。
啓司はいつも通り無視されている。
5人は、楽屋と言うにはあまりにも狭く汚い控室に戻り、少し談笑を始めた。
「全部で30人くらいは来てるらしいぞ。」
「すげぇ。」
「何だろう…中学の文化祭の方が人数は多かっただろうけど、今回の方がやっぱりドキドキする。」
「下級生の結城瑞穂がね…」
少しばかり緊張もほぐれて、他愛もない会話に花が吐き始めたその時。
ダダダダダダダダダダ!!
突然爆音が流れ出した。
最初のバンドの演奏が始まり、ライブが開演したのだ。
シータの出番は3番目。時間的に換算すると約1時間・・・弱。
シータ初ライブまで1時間をきったのだ。
しもたろうに 先生に励ましのお便りを送ろう!!
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