ひとときの暗がり
作:しもたろうに [website]
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ライブ当日がやってきた。
蒸し暑い夏の日。
強く照り付ける太陽が否が応にも気分を高揚させていく。
いち早く集合場所にやってきたのはギターの啓司だった。
啓司は「歌BON」と言う最新曲の楽譜を紹介している雑誌の最後に載っている通販で買った18,000円のフォトジェニックギターを肩にかけ、ハードオフで見つけた10,000円のBOSSの中古マルチエフェクターを右手に携えていた。
汗だくつゆだく。
この日のために古着屋で買ったKISSのTシャツは、もう半透明になっている。
啓司の次には、親の車でのVIP乗り付けでウルオがやってきた。ドラムセットは、ライブハウスのものを使うので、スティックの入った皮製の黒いケースだけを脇に抱えている。
啓司とは対照的に汗一つかいていない。
ムラヤンも一緒だ。ムラヤンは、まだ歌詞を覚えきれていないのか自信がないのか、手書きの歌詞をはさんだルーズリーフを見ながら「ブツブツ」何かの言葉を反復している。
最後に、電車を乗り継いだ局長とタクヤがやってきた。
タクヤは、「バンドやろうぜ」と言う当時のバンドキッズ必携の雑誌に載っている通販で紹介されていたサクラ楽器の24,000円のベースを肩にかけている。
局長は、吉岡が以前話していたローランドのキーボードを使うつもりで手ぶらだった。一応、ポケットに財布は入れている。
「シータ」メンバー全員集合。イン三越前マクドナルド。
そのままマクドナルドに入店し、少し早めの昼食を食べた。
それぞれがたわいも無く当り障りの無い会話に専念している。
誰も今日のライブのことは口に出さない。
ライブの事を口にしてしまえば、これから必ず起こりうる現実をしっかりと認識してしまう。
まだその段階ではないと、誰もが考えていたのだろう。
もちろんの事、全員が尋常ではないレベルで緊張していた。
例えば、啓司。
自分の家以外でうんこをしないこだわりを持ってた啓司が、このマクドナルドでは、もう3回も腹痛でトイレに駆け込んだ。
例えば、局長。
普段ビックマックのLセットをペロリと食べれる局長が、照り焼きバーガーの普通のセットを食べきれていない。
啓司につられたのか、局長も何だか腹が痛くなってきた。
メンバーの緊張は限界を超えてさらに高まっていく。
今日の午後5時がライブの開演。その前にリハーサルがあり、吉岡には「遅くても2時にはライブハウスに入っておいてくださいね」と伝えられていた。
今は、午後1時。マクドナルドの中は、仕事をしている社会人と、明らかに学生のグループで満席。所謂お昼休みの喧騒を極めている状態だ。
この中で、今日今からライブに出演するのは、きっとオレ達だけだろうな。と、局長は良く分からない優越感に浸りながら、何度も周囲を見回している。
「ジョロ!」
啓司が自分のコーラを飲み切った。
どうやら皆がハンバーガーとセットの食べ物飲み物を全て食べ終えたようだ。
そろそろライブハウスに行かなければいけない。
それを分かっていながら、誰もそのことを口に出さなかった。
10分・・・15分・・・20分・・・25分・・・
意味の無い時間が、チクチクと痛いとげの様に突き刺さりながら過ぎて行く。
過ぎれば過ぎるほど心身はどんどん摩耗し続けているようだ。
緊張は限界を突破。
その結果、もう何だかよく分からないハイな気分にさえなってきた。
「そろそろ行くか。」
局長が重い口を開いた。
もうここから出たら、後はライブまで止まる事はできないだろう。
だとしても、もうこれ以上ココで無駄な時間を割いていても事態が何も好転しない事くらい、全員分かり切っている。
タクヤとウルオが局長を見て頷いた。
ムラヤンが先んじて自分のトレイをもって立ち上がる。
啓司は靴を脱いでいたた為、一人出遅れて「チョッ…チョッと待ってくれるかな?」と呟いた。
啓司を無視して4人はマクドナルドを出た。
啓司が後から小走りで出てくる。
クーラーの効いた店内から一転、暑い日ざしが容赦なく5人をさしてくる。
いつも学校に向かう足取りとは明らかに違うスピードでゆっくりゆっくり・・・5人はライブハウスに向かって歩き出した。
もう誰も何も喋らなかった。
蒸し暑い夏の日。
強く照り付ける太陽が否が応にも気分を高揚させていく。
いち早く集合場所にやってきたのはギターの啓司だった。
啓司は「歌BON」と言う最新曲の楽譜を紹介している雑誌の最後に載っている通販で買った18,000円のフォトジェニックギターを肩にかけ、ハードオフで見つけた10,000円のBOSSの中古マルチエフェクターを右手に携えていた。
汗だくつゆだく。
この日のために古着屋で買ったKISSのTシャツは、もう半透明になっている。
啓司の次には、親の車でのVIP乗り付けでウルオがやってきた。ドラムセットは、ライブハウスのものを使うので、スティックの入った皮製の黒いケースだけを脇に抱えている。
啓司とは対照的に汗一つかいていない。
ムラヤンも一緒だ。ムラヤンは、まだ歌詞を覚えきれていないのか自信がないのか、手書きの歌詞をはさんだルーズリーフを見ながら「ブツブツ」何かの言葉を反復している。
最後に、電車を乗り継いだ局長とタクヤがやってきた。
タクヤは、「バンドやろうぜ」と言う当時のバンドキッズ必携の雑誌に載っている通販で紹介されていたサクラ楽器の24,000円のベースを肩にかけている。
局長は、吉岡が以前話していたローランドのキーボードを使うつもりで手ぶらだった。一応、ポケットに財布は入れている。
「シータ」メンバー全員集合。イン三越前マクドナルド。
そのままマクドナルドに入店し、少し早めの昼食を食べた。
それぞれがたわいも無く当り障りの無い会話に専念している。
誰も今日のライブのことは口に出さない。
ライブの事を口にしてしまえば、これから必ず起こりうる現実をしっかりと認識してしまう。
まだその段階ではないと、誰もが考えていたのだろう。
もちろんの事、全員が尋常ではないレベルで緊張していた。
例えば、啓司。
自分の家以外でうんこをしないこだわりを持ってた啓司が、このマクドナルドでは、もう3回も腹痛でトイレに駆け込んだ。
例えば、局長。
普段ビックマックのLセットをペロリと食べれる局長が、照り焼きバーガーの普通のセットを食べきれていない。
啓司につられたのか、局長も何だか腹が痛くなってきた。
メンバーの緊張は限界を超えてさらに高まっていく。
今日の午後5時がライブの開演。その前にリハーサルがあり、吉岡には「遅くても2時にはライブハウスに入っておいてくださいね」と伝えられていた。
今は、午後1時。マクドナルドの中は、仕事をしている社会人と、明らかに学生のグループで満席。所謂お昼休みの喧騒を極めている状態だ。
この中で、今日今からライブに出演するのは、きっとオレ達だけだろうな。と、局長は良く分からない優越感に浸りながら、何度も周囲を見回している。
「ジョロ!」
啓司が自分のコーラを飲み切った。
どうやら皆がハンバーガーとセットの食べ物飲み物を全て食べ終えたようだ。
そろそろライブハウスに行かなければいけない。
それを分かっていながら、誰もそのことを口に出さなかった。
10分・・・15分・・・20分・・・25分・・・
意味の無い時間が、チクチクと痛いとげの様に突き刺さりながら過ぎて行く。
過ぎれば過ぎるほど心身はどんどん摩耗し続けているようだ。
緊張は限界を突破。
その結果、もう何だかよく分からないハイな気分にさえなってきた。
「そろそろ行くか。」
局長が重い口を開いた。
もうここから出たら、後はライブまで止まる事はできないだろう。
だとしても、もうこれ以上ココで無駄な時間を割いていても事態が何も好転しない事くらい、全員分かり切っている。
タクヤとウルオが局長を見て頷いた。
ムラヤンが先んじて自分のトレイをもって立ち上がる。
啓司は靴を脱いでいたた為、一人出遅れて「チョッ…チョッと待ってくれるかな?」と呟いた。
啓司を無視して4人はマクドナルドを出た。
啓司が後から小走りで出てくる。
クーラーの効いた店内から一転、暑い日ざしが容赦なく5人をさしてくる。
いつも学校に向かう足取りとは明らかに違うスピードでゆっくりゆっくり・・・5人はライブハウスに向かって歩き出した。
もう誰も何も喋らなかった。
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