新都社×まんがおきば連携作品

ひとときの暗がり

作:しもたろうに [website]

高校一年生 - (8)思いあぐねる

そもそも演劇における場面変更は出来る限り控えなければいけない。

演劇の場合、その多くは一度舞台上を真っ暗にする暗転を行いその間に小道具などを移動させるため、一度の場面変更は長い時には数分間を要する。その間待ちぼうけになるお客は、いやがおうにも現実に引き戻されてしまうのだ。

あまりにも何度も、現実に引き戻されると、感情移入しづらいばかりかストーリー自体も切れ切れになり、結果的に面白み自体が半減する。

加えて高校演劇は普通1時間以内に終わらなければいけない。となると、どんなに譲歩しても場面変更は5回まで。5回と言うのは多すぎる。出来れば場面変更なしか、1~2回が理想。

そう部長の守山に教えられた。

確かに局長が書いた「マリオネット」は、ルーズリーフ30枚程度。実演した場合、時間にして45分くらいになるだろう。その間に8回の場面変更があった。つまり約5分に1回の場面変更。分かりにくいならテレビドラマに置き換えてもいい。45分中、5分に1回CMが入るドラマに果たして感情移入できるだろうか。

・・・答えは「否」である。

マンガでならそれは「あり」だ。

緊張感を出すために、当たり前に使われている手法だ。極端な話1コマ単位で場面を変更させる場合さえある。

コレまでマンガばかり描いていた演劇ド素人の局長は、つまりマンガと同じ構成で物語を進めてしまったと言うわけである。

結局、局長の「マリオネット」は没。加えて、他に集まったものは守山の書いた「南国」だけだった。

創作台本の件は保留。当初の通り、「すてふぁにー」と言う既成台本で行く方向になった。

局長は、人生で初めて自分の作った物語を人に見せると言う行為を行った。

見せる前段階の心持では、物語を否定されることは自分自身の存在さえ否定されることだと強く思っていたが、結果的に見ると実は少し違っていた。

これまで一人で悶々とドス黒い何かを吐き出し続けてきた局長にとって、初めて客観的な意見をもらえたこと、それが守山の優しさによるものと言う側面が強かったとしても、内容自体の否定ではなくあくまでも「演劇としては難しい」という意味での否定だったことから、想定と比べてショックの度合いは低かったのだ。

それよりも、自分の作り上げた世界を人に見てもらうと言う行為の想像を超える快感に酔いしれていた。

「次こそは!」と言う闘志すら湧いてきている。

その日、部活を終えて家に帰った局長は早速新しい構想を考えた。

「場面変更は5回まで・・・」そう何度も呟きながら、これまで描いてきた漫画を読み直す。

どの話のどの場面を使えば、場面変更5回までで面白い話になるのか…

そんな思考に縛られながら、局長は思いを巡らせて行った。

しかし、そう簡単にイメージが湧くはずもない。

局長はこれまで物語を考える上で、一切の制限を設けていなかった。当たり前と言えば当たり前である。

自分で好き勝手に漫画を描いて、自分だけで読んで、自分で悦に入っていただけのオナニーになぜ制限を設ける必要があると言うのか。

本来なら、誰にも見せずに行う孤高の行為だった。

しかし、ついに今日、人に見せつけ、あまつさえ人に制限を課してもらった上でもう一度。と言う、これまでにはなかった世界に今、一歩足を踏み入れたのだ。

とか何とか、いつものように良く分からない妄想に浸っていると、不思議とムラムラしてきたので、本当に一回オナニーをした。

そして、テッシュ片手に真っ白になった頭によぎったことは、なぜか「シータ」のライブでやる曲の事だった。

ぼんやりと頭の中に2つの案が浮かんでくる。

コレまでに作った曲(前述の「森を抜けた先にある闇」)を編曲し直すと言う案。

もう1つは、「ピンポンバンド」の頃に作ったが、結局演奏される事の無かった曲「糧となるもの達」か「楽しい日々は過ぎ去りて」のどちらかを改めてちゃんと作り直すと言う案。

タクヤの提案した「まずはプロの曲をコピーして練習しよう」と言う案は、脳の片隅を掠ることすらあるはずもない。

先日こんな出来事があった。

いつものように休み時間局長が寝たフリをしていると、タクヤがやってきてライブがありそうだと言うのだ。

どうやら、タクヤは「シータ」が出演できるライブと言うものを探していたらしい。

タクヤはタクヤで何とかしなくてはならないと言う強い思いを持っていたのだ。

場所は、高松市。日本で一番小さな県である香川県のそれはそれは貧弱な県庁所在地。

その高松市にある「YAMAHA楽器 高松店」の5階にある小さなライブハウスで行われる「ティーンズライブフェスタ」と言うイベントである。

持ち時間は1バンド15分。参加費用は6000円となかなかお手頃なものだ。

先日の「犬小屋」での話し合いを経て、かなり必死になって探してきたらしい。

その話を聞いたとき、局長はもうそのライブに出る決意が固まった。

何より、タクヤのバンドに対する強い思いにまず素直に感動したのだ。

そのありがたさと言ったら、言葉に出来るような簡単なものではない。そして、局長はその言葉を口にすることはない。

「シータ」としてどんな活動をするかについて、局長とタクヤの間で平行線をたどっている現状で、そもそも活動自体が保留ではあったが、そんな事は関係なかった。

ついでに言えば、啓司の答えもまだ聞いていない。

ムラヤンは「絶対無理」と首をぶんぶん降っていた。

だが、それを説得してでも、絶対にやりたかった。それ位に、局長は嬉しかったのだ。

その経緯を含めて、局長はすっきりした頭でぐるぐる考えていた。

テッシュ片手に考えていた。

それから数日たったある日の部活中、水野と言う先輩が局長に話し掛けてきた。

「ね~ね~高井君。高井君って結構たくさんマンガ持ってるんでしょ?」

「はぁ・・・まぁ・・・好きなんで、そこそこには持ってますけど。」

「エ~ッと・・・『寄生獣』って言うマンガ持ってる?」

「オオ!!『寄生獣』!!それオレがこの世で一番好きなマンガですよ。持ってますよ。勿論。・・・と言うか 愛読書です。」

「寄生獣」は今でこそ伝説的な名作と言われているが、当時完結してから日も浅く、掲載している雑誌アフタヌーンの看板マンガではあったが、雑誌自体がマイナーだったため知る人ぞ知ると言った評価だった。

局長は1巻をたまたま古本屋で見かけ「気持ち悪い表紙だから読んでみよう」という中二病的理由で何気なく手に取って、ぺらぺらとページをめくってみた。

その瞬間「こんな面白い漫画がこの世にあっていいのか」と軽い失禁すら厭わない衝撃を受け、それ以来最も好きな漫画は「寄生獣」であり、最も尊敬する漫画家はその作者「岩明均」となった。

ちなみに、これは今現在も変わっていない。

急激に普段と全く違うテンションになった局長に、水野は少し面喰いつつ

「ホント?やった~。やっぱりおもしろい?」

と局長の顔を覗き込んだ。

「やばいッスね~。オレはあれ読んで、物語ってものの考え方が変わりましたよ。何かこう・・・やっぱり、 書くからには、訴えるものがないとネ・・・みたいな?」

「へ~そんな面白いんだ。」

「いやホント、オレはあれのお陰で今みたいな物語書くようになりましたから」

「んぢゃさ、それ貸してくれない。よんでみたいの。」

「いいっすよ。んぢゃ、単行本全巻明日持ってきますね。」

「ウン。お願い。」

水野先輩はそう言うと、軽いステップを踏みながら守山達のいるステージの真ん中へ戻っていった。

局長は、自分がつくづく自分の好きな話になると極端に饒舌になる典型的なオタクだとか考えつつ、刹那、ふと閃いた。

「そうか・・・忘れていた。あの日、あの時の衝撃。演劇も同じだ。」・・・と。

閃きは恐ろしい速さで局長の脳内で転がり始めた。

その勢いは止まることがなく、周りで談笑していたタクヤ達の存在すらかき消すほどのものだった。

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