ひとときの暗がり
作:しもたろうに [website]
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局長達が始めて部活動に顔を出してから一週間。
タクヤ達が少しずつ他の部員(つまりは女の子たち)と馴染んできた事と対照的に、相変わらず局長は誰とも馴染め切れずに居た。
それ以前に、まだほとんどの部員の名前と顔が一致していなかった。
初日に挨拶してきた子… 確か…白石…なんだっけ?
部長は…名前とかよく分かんないから部長と呼んどけばいいか。
と言う体たらくぶり。
局長は人の顔や名前を覚えるという事が元来苦手だった。
人見知りを拗らせ続けまともに人の顔を見る事もままならないという事実が、人の顔を覚えられないと言う欠点にさらに拍車をかけていた。
長い付き合いのタクヤの顔さえもまともに見た事もなければ、おそらく覚えてもいない。街中で見かけたとしても、その人物がタクヤだと気が付く事さえ難しいだろう。
局長が人を判断する方法は、その人が纏っている「空気感」だけだった。
-------------
局長がタクヤ達を「ハーレム計画」の障壁だと認識してから1週間。
チャンスは思いのほか早くにやってきた。
その日、ウルオとムラヤンは「新作のゲーム」をムラヤンの家でやると言う理由で始めて部活をサボった。
タクヤは、クラスの用事で部活に顔を出すのは大分遅くなるだろうから休んでしまうと局長に告げていた。
その日、部活動に参加するのは局長一人だけ。
「あいつ等さえ居なくなりオレ一人なら、もうこれはオレと盛り上がるしかない。両手に花とは、今日この瞬間のために作られた言葉だったのか。」
局長は、軽いスキップのような足取りで体育館へ赴き、しかしそれでいてドキドキしながらステージのドアを開けた。
いつもの様に、何人かの先輩がステージの中央でしゃべっている。
どうも例の「白石何とか」と言う同級生の子もいるようだ。
局長はその集団に向かって行き、勇気を出して声をかけた。
「ち~っす」
ただのあいさつではあったが、同時に局長にとっては可能な限りできる最大限の会話でもあった。
全員がチラッと局長の方を見る。
「いらっさ~い」
部長の守山だけが挨拶を返した。
そして、またそれぞれ会話に戻っていった。
局長は呆然とした。
皆が楽しそうに話している。
今日はオレしかいない。
しかも、オレから声までかけた。
これ以上オレに何が出来ると言うのだ?
なぜこの女たちはオレの周りに寄ってこない。
なぜオレに話しかけてこない。
なぜオレと仲良くなろうとしない。
ここまで努力したというのに、それでもやはり「女」からは相手にされないのか…
高校生活を始めてから女子との総合計会話時間1分未満、女性経験皆無の局長に、もはや残された手段はなかった。
途方に暮れながら、一人とぼとぼと集団から離れ、ステージの袖に座りこけた。
どんどんと暗い気持ちが局長を覆い尽くしていく。
何が自分に足りないのか。
何が自分に出来るのか。
どうすれば女の子と話しが出来るのか。
出来る事は全部やった。
男は自分以外誰もいない。
自分から寄って行った。
声もかけた。
それなのに!
それなのに!
オレは生涯女の子と仲良く出来ないんだ。
オレは生涯セックス出来ないんだ。
「GTO」と言うマンガで主人公の鬼塚英吉が20歳までに童貞を捨てられず「ヤラハタ」とバカにされるシーンを読んだ事をなぜか局長は思い出していた。
この空間でさえも誰からも相手にされないオレに、一体どんな未来が待ち受けていると言うのか。
その未来はきっとバラ色ではない。
灰色の人生だ。
誰からも愛されず、愛すこともなく、女が股を開くことはない。デストピアを一人で生きるような暗がり人生だけが待っている。
どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん…深く深く気持ちは落ちていった。
相手がどんな気持ちなのかを考えるよりも、自分の気持ちを分かってくれない事への憤り、自分を相手にしてくれない憤りだけが先行していた。
そんなどうしようもない状況で一人悶々と負の空気を出し続けている局長の状態をいち早く察知したのは守山だった。
「高井君チョッと良い?」
ふわっと局長の方に向かいつつ、声をかけてきた。
「今、皆で話してたんだけど…え~とぉ…今日集まり悪いから、前集まってもらった教室で、今度の公演でする予定の『すてふぁにー』を別の人が実際にやっている映像を一緒に見ようか?」
仲良くなるチャンスでもあり、且つ、タクヤ達が経験してない他の部員と局長だけのイベントを経験できる。
普通に考えれば、ただただありがたい提案だった。
だが、どす黒い気持ちが全身を覆っているネガティブ局長にとって、それは「チャンス」ではなく「この疎外感100%MAXな空間の延長」でしかなかった。
「はぁ…でも、今日…オレはあんまりやる気無いんすよ。」
搾り出すようにそれだけ言うと下を向いた。
守山はこのどうしようもない後輩の態度に業を煮やし
「そっか。じゃあ…もう今日は終わりにしよっか。」
とだけ呟いて少し肩を落とし、また他の部員の元に戻っていった。
「みんな。今日は集まり悪いし、終わりにするから、家でゆっくり休んでください。」
と少し大きめの声で伝え、
「高井君。もう今日はいいよ。お疲れ様。」
と言った。
その日の帰り道、局長は少しだけの喜びを抱えながら一人で帰路に着いた。
少しの喜びとは「部長(と言うか、一人の女)が自分に声をかけてくれた~」と言う、とてつもなくしょうもない喜び。
他の誰でもなく局長を気遣い向けられた言葉だった事が何だか嬉しくて仕方がなかったのだ。
このような自分に対して声をかけてくれた時間も、局長は「女子との総会話時間」としてカウントしている。
またその時間が伸びた。と考えると、ニヤニヤが止まらない。
ただ、そんなささやかな喜びは更なる絶望感と強烈な疎外感によって、あっという間に塗りつぶされていった。
夕暮れの赤さが、局長の感情を悪い方向へ助長していた。
タクヤ達が少しずつ他の部員(つまりは女の子たち)と馴染んできた事と対照的に、相変わらず局長は誰とも馴染め切れずに居た。
それ以前に、まだほとんどの部員の名前と顔が一致していなかった。
初日に挨拶してきた子… 確か…白石…なんだっけ?
部長は…名前とかよく分かんないから部長と呼んどけばいいか。
と言う体たらくぶり。
局長は人の顔や名前を覚えるという事が元来苦手だった。
人見知りを拗らせ続けまともに人の顔を見る事もままならないという事実が、人の顔を覚えられないと言う欠点にさらに拍車をかけていた。
長い付き合いのタクヤの顔さえもまともに見た事もなければ、おそらく覚えてもいない。街中で見かけたとしても、その人物がタクヤだと気が付く事さえ難しいだろう。
局長が人を判断する方法は、その人が纏っている「空気感」だけだった。
-------------
局長がタクヤ達を「ハーレム計画」の障壁だと認識してから1週間。
チャンスは思いのほか早くにやってきた。
その日、ウルオとムラヤンは「新作のゲーム」をムラヤンの家でやると言う理由で始めて部活をサボった。
タクヤは、クラスの用事で部活に顔を出すのは大分遅くなるだろうから休んでしまうと局長に告げていた。
その日、部活動に参加するのは局長一人だけ。
「あいつ等さえ居なくなりオレ一人なら、もうこれはオレと盛り上がるしかない。両手に花とは、今日この瞬間のために作られた言葉だったのか。」
局長は、軽いスキップのような足取りで体育館へ赴き、しかしそれでいてドキドキしながらステージのドアを開けた。
いつもの様に、何人かの先輩がステージの中央でしゃべっている。
どうも例の「白石何とか」と言う同級生の子もいるようだ。
局長はその集団に向かって行き、勇気を出して声をかけた。
「ち~っす」
ただのあいさつではあったが、同時に局長にとっては可能な限りできる最大限の会話でもあった。
全員がチラッと局長の方を見る。
「いらっさ~い」
部長の守山だけが挨拶を返した。
そして、またそれぞれ会話に戻っていった。
局長は呆然とした。
皆が楽しそうに話している。
今日はオレしかいない。
しかも、オレから声までかけた。
これ以上オレに何が出来ると言うのだ?
なぜこの女たちはオレの周りに寄ってこない。
なぜオレに話しかけてこない。
なぜオレと仲良くなろうとしない。
ここまで努力したというのに、それでもやはり「女」からは相手にされないのか…
高校生活を始めてから女子との総合計会話時間1分未満、女性経験皆無の局長に、もはや残された手段はなかった。
途方に暮れながら、一人とぼとぼと集団から離れ、ステージの袖に座りこけた。
どんどんと暗い気持ちが局長を覆い尽くしていく。
何が自分に足りないのか。
何が自分に出来るのか。
どうすれば女の子と話しが出来るのか。
出来る事は全部やった。
男は自分以外誰もいない。
自分から寄って行った。
声もかけた。
それなのに!
それなのに!
オレは生涯女の子と仲良く出来ないんだ。
オレは生涯セックス出来ないんだ。
「GTO」と言うマンガで主人公の鬼塚英吉が20歳までに童貞を捨てられず「ヤラハタ」とバカにされるシーンを読んだ事をなぜか局長は思い出していた。
この空間でさえも誰からも相手にされないオレに、一体どんな未来が待ち受けていると言うのか。
その未来はきっとバラ色ではない。
灰色の人生だ。
誰からも愛されず、愛すこともなく、女が股を開くことはない。デストピアを一人で生きるような暗がり人生だけが待っている。
どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん…深く深く気持ちは落ちていった。
相手がどんな気持ちなのかを考えるよりも、自分の気持ちを分かってくれない事への憤り、自分を相手にしてくれない憤りだけが先行していた。
そんなどうしようもない状況で一人悶々と負の空気を出し続けている局長の状態をいち早く察知したのは守山だった。
「高井君チョッと良い?」
ふわっと局長の方に向かいつつ、声をかけてきた。
「今、皆で話してたんだけど…え~とぉ…今日集まり悪いから、前集まってもらった教室で、今度の公演でする予定の『すてふぁにー』を別の人が実際にやっている映像を一緒に見ようか?」
仲良くなるチャンスでもあり、且つ、タクヤ達が経験してない他の部員と局長だけのイベントを経験できる。
普通に考えれば、ただただありがたい提案だった。
だが、どす黒い気持ちが全身を覆っているネガティブ局長にとって、それは「チャンス」ではなく「この疎外感100%MAXな空間の延長」でしかなかった。
「はぁ…でも、今日…オレはあんまりやる気無いんすよ。」
搾り出すようにそれだけ言うと下を向いた。
守山はこのどうしようもない後輩の態度に業を煮やし
「そっか。じゃあ…もう今日は終わりにしよっか。」
とだけ呟いて少し肩を落とし、また他の部員の元に戻っていった。
「みんな。今日は集まり悪いし、終わりにするから、家でゆっくり休んでください。」
と少し大きめの声で伝え、
「高井君。もう今日はいいよ。お疲れ様。」
と言った。
その日の帰り道、局長は少しだけの喜びを抱えながら一人で帰路に着いた。
少しの喜びとは「部長(と言うか、一人の女)が自分に声をかけてくれた~」と言う、とてつもなくしょうもない喜び。
他の誰でもなく局長を気遣い向けられた言葉だった事が何だか嬉しくて仕方がなかったのだ。
このような自分に対して声をかけてくれた時間も、局長は「女子との総会話時間」としてカウントしている。
またその時間が伸びた。と考えると、ニヤニヤが止まらない。
ただ、そんなささやかな喜びは更なる絶望感と強烈な疎外感によって、あっという間に塗りつぶされていった。
夕暮れの赤さが、局長の感情を悪い方向へ助長していた。
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