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そくせき

作:鳶沢ちと [website]

飛文症 - 1.飛んで見えている

飛蚊症、吾輩、眼鏡 の三題噺
サスペンスとミステリの間ぐらいに位置する短編です
お題はこちらのねこたちから
https://meow.fan/
「飛蚊症、としか」
 問診票とにらめっこしながら発せられた言葉に、僕は辟易とした。同じことを言われて、そろそろ両手に余る。だから、次に続く言葉も分かっていた。
「生まれつきのものに最近気が付いた、ということもありますが、病気の初期症状ということもあり得ます。念のため検査することをおすすめしますが」
「いえ、結構です」
 名医と巷に呼ばれる彼も、僕を前にしてついに眉間のしわが取れることはなかった。一言目には飛蚊症、二言目には検査、三言目には心療内科か脳外科。彼も、かつて受診した眼科医も、異口同音であった。
「もしかしたらということもあります。念のため、設備のある病院でMRIということも――」
「それも結構です。他になければ、僕は帰ります。ありがとうございました」
 医者を責める気にはならなかった。僕の症例が特殊なだけなのだから。
 飛蚊症は、目の中に異常が発生し、視界のごく一部分が見えなくなることで、黒い虫が飛んでいるように見える病気である。原因は色々あるが、それはいい。問題は、僕の目に飛んでいるのが黒い虫などではなく、もっと具体的に形を持っていることだ。
 僕の目には、文字が飛んで見えている。だから僕はこの症状のことを、飛文症と呼んでいた。

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